カテゴリ:Brown bear
ヒグマ[編集]
学名 Ursus arctos Linnaeus, 1758 染色体 2n = 74, ゲノム 2.2~2.4 Gb 英語名 Brown bear, Grizzly bear
概要[編集]
ヒグマ(羆、緋熊、樋熊、学名:Ursus arctos)は、 哺乳綱食肉目クマ科に属する哺乳類である。クマ科の中でホッキョクグマの次に大きく、亜種であるコディアックヒグマ(Ursus arctos middendorffi)はホッキョクグマに匹敵する体調を誇る。日本に生息する亜種エゾヒグマ(Ursus arctos yesoensis)は、日本の陸棲哺乳類(草食獣を含む)で最大の種である。 北半球に広く生息する。地域によって違いが見られるものの、草食傾向のある雑食性である。 ホッキョクグマとは極めて近縁な関係にあり、最近ではホッキョクグマとヒグマの交雑個体が確認されている。
進化史[編集]
これまでの研究で、ミトコンドリアDNAに基づく系統関係から、ヒグマは気候変動に伴い複数回にわたって分散したことが示唆されている。またY染色体の解析から、オスの分散によって個体群間の遺伝子流動が起こっていることが示されている。全ゲノムデータは2012年ごろから増え始め、2022年現在、北海道・ヨーロッパ・北米地域のヒグマのゲノムデータがDDBJで公開されている。 全ゲノム解析による進化史に関する研究では、主に次のことが調べられている。
(1) 近縁種との交雑 概要のとおり、ホッキョクグマとヒグマは極めて近縁な関係にあり、2種の種分化および交雑についてはこれまで多くの研究で調べられてきた。ミトコンドリアDNA分析では、ヒグマとホッキョクグマの系統関係から、ホッキョクグマはおよそ10万年前という最近、アメリカ合衆国のアラスカ州に属するABC諸島(アドミラルティ・バラノフ・チチャゴフ島)のヒグマから派生したと考えられてきた。一方全ゲノム解析では、研究によって一部異なる部分があるものの、数百万年前に種分化しその後交雑したという説が一般的である。Miller et al. (2012)ではホッキョクグマとヒグマは500万年前から400万年前に種分化し、その後交雑が起こっていると推定している。特に20万年前から10万年前の間の交雑で、ホッキョクグマのミトコンドリアDNAがABC諸島のヒグマのミトコンドリアDNAに置き換わるmitochondrial captureが起きた可能性を指摘している。Cahill et al. (2013)、Liu et al. (2014)では、この交雑により、ホッキョクグマからABC諸島ヒグマによる遺伝子流動が起きたと推定している。またCahill et al. (2015)で、ホッキョクグマと交雑したABC諸島の個体群のオスが各地に分散したことで、ホッキョクグマからの遺伝子流動の影響がアラスカ本土のヒグマにも及んでいることが示されている。アジア地域ではクナシリ島のヒグマがホッキョクグマと交雑した可能性が指摘されている(Cahill et al. 2018)。 全ゲノム解析では、ホッキョクグマ以外にも、すでに絶滅してしまったホラアナグマ(Ursus spelaeus)との交雑も示唆されている。
(2) 北海道のヒグマ個体群の成立 北海道に生息するヒグマは、異なるミトコンドリアDNA をもつ 3 つの系統が道南・道央・道東の 3 地域に異所的に分布している。これらの系統は,異なる時期に大陸の系統と分岐したという推定から、3 回にわたって渡来したと考えられている。しかしミトコンドリア DNA の系統関係は、(1)近縁種との交雑でも示したとおり、種の分岐や交雑を必ずしも全て反映しているとは限らない(例えば Miller et al. 2012; Liu et al. 2014)。そこでEndo et al. (2021)では、北海道のヒグマ 6 個体を対象に全ゲノム解析を行うことで、大陸集団と北海道集団の関係性、北海道集団の渡来史を再検討した。常染色体 に基づく遺伝構造解析では、北海道の集団と大陸の集団は遺伝的に明瞭に異なることが示された。またゲノムから有効集団サイズの時間的変化を推定するPSMC を行ったところ、大陸のヒグマは13 万年前から 11 万 4000 年前の間氷期に、集団サイズが一時的に増加するという結果になった一方、今回解析した北海道のヒグマでは、そうした集団サイズの変化が見られず、これは解析した北海道のヒグマ 6 個体すべてで確認された。加えて個体群間の遺伝子流動の有無を検定するƒ4統計では、北海道全ての個体で最終氷期に北半球に広く拡散した系統との遺伝的交流が示唆された。以上の結果から、北海道のヒグマ集団は、一部個体が13 万年前から 11 万 4000 年前の間氷期以前に渡来した後、その後渡来した系統と遺伝的交流が起こったことで、系統間で同じ遺伝的特徴を共有したと考えられる。